|
|
参加総数3万人、アマチュアディーラーと称される「100%すべてを自分の手で、まったくのゼロの状態から造形物(=ガレージキット原型)を作り上げる」人間だけでも優に1000人以上が集うワンフェスは、名実共に“世界最大の造形の祭典”と呼べる規模にまで成長しました。気泡やバリだらけのレジンキャストのかたまりを、マニアがひっそりとやりとりしていた'80年代中盤、誰が今日のようなワンフェスの繁栄を予測し得たでしょうか?
が、そうした規模の拡大と、世間一般からの認知や理解を獲得した代償として、近年のワンフェスは、そもそもワンフェスのパワーの源であったはずの「とある大切なもの」を急速に失ないつつあるように感じます。それは、ほかの何より圧倒的に出来のよい模型であろうとし続ける“ガレージキットならではのスピリッツ(精神性)”という部分です。
クオリティを追及するよりも、参加すること自体を楽しむ人がほとんどに見える今日のワンフェス参加者に対し、このような旨を唐突に述べたところで、そこに共感を生むのが困難であろうことは重々承知しています。また、その「参加すること自体を楽しむ」という風潮を否定するつもりもありません。それはそれでいま現在のワンフェスにおける、もっともポピュラーな楽しみ方なのでしょうから。
ただし――。
実力派で知られる某中堅原型師は、最近のワンフェスについてこう語ります。
「いまのワンフェスは自分にとってすごく厳しいですね。造形の善し悪しではなく、アイテム選択ですべてが決まってしまうんですよ。どんな自信作でも、そのキャラクター(=造形対象)に人気がなければ見向きもされない。逆にキャラクターに人気があれば、ヘロヘロの出来のものでも飛ぶように売れていくんです」
また、ガレージキットファンならその名を知らぬ者はいない天才タイプの超有名原型師からは、こんな話も聞かれました。
「ぼくがワンフェスにアマチュアディーラーとして出店していたとき、最後のほうはもう、いくら新作を発表しても何も変化しない状況に対して萎えちゃってて……。結果的にはギリギリのところでガレージキットメーカーから声を掛けていただけたんでこの業界に残っていますが、正直な話、あのままだったらガレージキットの世界から足を洗っていたと思います」
ワンフェス会場内にほんのひと握りだけ現存する「圧倒的なものを作りたい!」というスピリッツを胸に抱いている人たちが、森のなかに隠された木のように埋もれていってしまう現実――。実際、ここ数回のワンフェス会場を歩いているときに感じたのが、こうした人たちの萎えた気分から生じる“ヤバげな空気”でした。
無論、なかには宮川 武氏(T's
system)のような、秀でた作品を長期間提示し続けることでワンフェス会場内での信用を勝ちとり、マスコミによる紹介以前にイベント内ビッグネームへと成長していった健全なケースも存在します。しかし、いつ誰の場合も宮川氏と同じような図式が生じるとは限りませんし、ワンフェスの規模の拡大は、ますますそうした人たちの存在やスピリッツを見えづらいものとしています。こうした悪循環は、大袈裟でもなんでもなく、回を追うごとに加速し続けているのです。
このような状況に対し、なんらかの手を打つべきではないか? このままの状態を放置し続けることは、ワンフェスの、ひいてはガレージキットを取り巻くシーン全体の硬直化へと繋がるのではないか――こういった私個人の考えとワンフェス実行委員会の思惑が合致した結果が、今回ここにプレゼンテーションする『ワンダーショウケース(Wonder
Showcase)』レーベルの設立へと繋がっていきました。
もちろん、この方法論を用いるだけで先に挙げたワンフェス内の問題すべてが一気に解決するわけではありませんし、また、こうした提案がみなさんからどの程度の支持を得られるか、そればかりは想像がつきません。
ただ、目の前の現実に対し、いま自分にでき得ることをやれるところまでやってみること、これはガレージキット創世期からなんらかのかたちでこの世界に関わり続けてきた自分にとっての、ある種の“責任”であるように考えています。そして、このレーベルの立ち上げから、少しずつでも「何かが変わっていく」ことを期待したいのです。
『ワンダーショウケース』レーベルプロデューサー/模型文化ライター
99年8月8日記
↑top
|
|