ワンダーショウケース 第39期プレゼンテーション作品
「アドバイスを促す余地がすでに存在しない」事実
この先どの境地まで達するかを楽しみにしたい逸材
仮に創作系クリーチャーというジャンルの造形物に一切興味がない人でも、Sagata Kickの作品を見れば「また新たにすごい才能が現れた」ということだけは直感的に感じ取れるのではないか。とくにそのデザインセンスは日本人的ではなく、「きちんとした設定がありそうでいながら意図的にそこを強調して描くことなく、1枚絵のイラストとして完全完結させるアメリカ人系イラストレーターのそれに近い」と言ってよいだろう(なおその理由のひとつとして、美大生時代にマクファーレントイズ社製の『マクファーレンドラゴンズ』シリーズにインスパイアされた部分が少なくないという)。
また、ZBrushを使った3DCGモデリングも文句の付けどころを見つけるのが難しいほど秀逸で、とくにディテールの粗密感コントロールは特筆モノ。デジタルの優位性を活かしただいたずらに精密さのみを強調するのではなく、「ディテール密度の低い箇所を意図的に設けることにより、造形作品全体を盛り上げる」という鳥瞰視点を活用した行為が25歳という若さで成し遂げられていることには素直に驚かされる。
が、本人曰く、「デジタル造形に切り替えた結果、PC画面上だと造形物の重量や作業スペースの縛りがなくなり快適に作業ができるため一度ハマったら戻れなくなってしまったものの、アナログ造形ならではの彫りの深さやタッチがそのまま表れるところなどはデジタルではまだ追いつけないところだと思うため、またアナログ造形ができるようになりたいという気持ちもある」とも語っており(実際にいまも3Dデータを立体出力したのち、エポキシパテ等を使いアナログ作業にて出力物にメリハリを付け直しているらしい)、デジタルの優位性のみに甘んじようとしない姿勢も評価に値するだろう。
ちなみにカラーリングデザインと塗装技術の高さも見どころのひとつで、配色全体でもっとも大きな面積を占めるベースカラー、それに次ぐ面積を占める従属色たるアソートカラー、俗に「差し色」と称されることの多い強調色であるアクセントカラーの使いこなしが絶妙で、いたずらに色数を増やすことなく最低数の色にて造形物を盛り上げるスタイルにも長けている。 そして最後に言っておきたいのは、このような才能に関してはぼくのような人間がどうのこうのアドバイスできるような余地はほぼゼロ状態だということだ。空回り状態に陥らない限りはこのまま放っておいてもすくすくとその才能は伸び続けるはずなので、この先の彼がどういった境地にまで達するのか、厳しくも温かい目で見守っていきたいと考えている。
text by Masahiko ASANO
▼プレゼンテーション作品については以下のページも御覧ください。
第39期『ワンダーショウケース』アーティスト&プレゼンテーション作品紹介 WSC #105 Sagata Kick
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