ワンダーショウケース 第39期プレゼンテーション作品
「引き算」「足し算」、そして「寸止め」の美学
グラフィックデザイナーならではの周到な戦い方
WSC#046 Noa(第19期『ワンダーショウケース』/’09年夏選出)が主宰するディーラーである“clips”から、Noaに引きずり込まれるかたちでこの世界の住人となった造形作家──それがココハチという人材だ。
そして、「おそらくそうなのではないだろうか? ……いや、まちがいなくそうだろう」というこちらの予想どおり、その生業はフリーランスのグラフィックデザイナーだという。
なぜそういった予想をしていたのかと言えば、創作系というカテゴリーの問題ではなく、ココハチの造形作品が醸し出す空気感は一般的な美少女フィギュアのそれと絶対的に異なるためだ。それをなるだけ簡潔な言葉にするならば、「ココハチが手がける美少女フィギュアはグラフィックデザイナー視点にて、引き算と足し算をフルに駆使して構成されている」のである。
その引き算の部分は、(失礼なもの言いにはなるが)己の決定的なデッサン力不足を覆い隠す狡猾さ。そもそもグラフィックデザイナーという職種自体そうした毛色が強く、爆発的なエネルギーの放出以上に、ウィークポイントを見抜かれぬ計算高い手法が重宝がられる。
対して足し算の部分は、「ここにこうしたデザインの小物を配置すれば、フィギュアを眺める側の視線誘導を自分の考えどおりにコントロールできるのでは?」といった計算高い巧妙さ(しかも、上限ギリギリまで、寸止め状態にて多数の小物を配置するのが絶妙に上手い!)。これもやはりグラフィックデザイナーならではの特性であり、結果的には「フィギュア本体の造形よりも視線誘導用の小物作りのほうに興味が行っているのではないか?」と感じさせるほど、小物のデザインとその作り込みが秀逸なものと化している。
ちなみにそうしたフィギュアの完成見本の塗装自体はいまやフィギュアペインター(PVC製塗装済み完成品フィギュアの、量産用ペイントマスター製作者)として超売れっ子状態のNoaが全面的に担当しているそうなのだが、フィギュアの原型ができあがった時点でココハチがそれをデジカメで撮影し、その画像に対し彼がイメージしていたカラーリングを画像加工ソフトを使い彩色。そうして作成した彩色画像をベースとしてNoaと共に色相を検討していく……という、これもまたグラフィックデザイナーならではの手法を活用してフィニッシュへと持ち込んでいるのだという。
このように「そもそもはフィギュア造形に対し一切興味がなかったものの、自分なりの、自分にしかできないスタイルによる戦い方」をしっかりと見つけ出し、階段を着実に一歩ずつ登り続けていよいよ『ワンダーショウケース』にまで到達する──こんな異質な才能が生まれてくるのも、ワンフェスの懐の深さがあってのことだろう。
text by Masahiko ASANO
▼プレゼンテーション作品については以下のページも御覧ください。
第39期『ワンダーショウケース』アーティスト&プレゼンテーション作品紹介 WSC #106 ココハチ[clips]
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